後悔のない修理(必読)

後悔のない修理(必読)

表具師による表装・修理の内容は一般的にほとんど知られておりません。
『こんなに大変な仕事とは全く知らなかった』と言う声をよく耳に致します。
費用については指定文化財などの修理に要する費用は行政による手厚い保護によって守られていますが、私たち個人が先祖代々守られて来た品や、思いの深い品、これも文化財同様に伝え残さなければなりません。
文化財、個人所蔵いずれも大切な作品に対する思いの軽重はありません。清心堂は手間や技術を軽視することなく経済的負担を出来るだけ押えたご提案をさせて頂いております。
見えない部分での手抜き仕事が大衡する中、『後悔』のない修理・表装をするために、是非とも一読して頂けたら幸いです。
店舗情報・事業暦も合わせてご覧くださいませ。)

初めに、絵画や書の本紙と呼ばれる紙や絹は実は大変弱い素材に画かれている事をご存知でしょうか?
理由は保存を目的としているのではなく墨や絵具のにじみ、発色、筆の動きなど如何に綺麗に画く事が出来るかを重要として作られた紙だからなのです。
古来よりそれらの書画を守るために楮の植物繊維で漉いた良質の和紙で裏打ちをする事で何百年と保存し伝える事が出来るのです。
千年以上前からその役割を担っているのが現在の表具師です。
現在、最も重要な『守る』『伝える』仕事をしていない表装・修理が大変多い中後悔しないためにも是非ご承知頂けたら幸いです。

薬品によるクリーニングの注意

業者によっては、茶色に変色した作品や、染みが出た作品を「綺麗になります」と、店頭やホームページで紹介していますが、どのような方法で、どのようなリスクが有るのか、説明がほとんどされていません。薬品によるクリーニングは下記の通り確かに綺麗になります。

薬品によるクリーニングを行った場合

修復前
修復後

この様に大変綺麗になりますが強い薬品を使用するため、本紙は酸化し目に見えない負担は必ずあります。
当店ではお客様にはリスクを説明し、それでも薬品使用を望まれる方、飾って楽しむ事の出来ないほどの染みがある場合を除き薬品は使用いたしません。

知らずに機械表装をされてしまうケース

非常に多いケースです。
当店では、初めてお邪魔する寺院様等で、住職が「手ごろな価格で表装・修理ができた」と床の間にかかる掛軸を見せてくださる事が御座いますが、私共がその掛軸の裏を見て「あ~機械表具ですね!今後の修理は出来ませんよ!」と伝えると「え…!」と言葉がなくなることが本当に多く御座います。数年前では県の指定文化財が機械表装と言う事を当店が指摘し、大きな問題になった事も御座います。
安いだけの表装・修理には本当に気を付けて下さい。

数年前に修理したばかりなのに…

下記のような補強修理をしないと修理の意味がありません。
仕上がってしまうと分かりづらいので手を抜く業者が多数おりますのでご注意ください。

横に走る無数の折れ

横に走る無数の折れ

補強修理した箇所

細く白い部分が和紙で補強修理した箇所です。
これをしないと近い将来必ず同じ所から折れが生じます。

その他

二つの例を下記に記しました。

横折れの激しい作品

横折れの激しい作品を10年前に修復したはずが最初は綺麗に仕上がったと喜んでいたら数年で横折れが発生し初め、現在は直す前より悪くなってしまった。
(横折れの補強修理をしていなかった例)

昭和50年代に修復した涅槃図

昭和50年代に修復した涅槃図ですが、至る所で絵が剝がれ落ちてしまい信じられないほどボロボロでした。
原因は一番最初の裏打ち紙を剥がさず、傷んだまま何の修理も補強もせず、新しく廻りを取り換えて仕上げたことが原因です。
納品時から数年の間、お寺様も気が付かなかったようです。

後世に伝える表装・修理とは

仕上がったばかりの掛軸や額装など綺麗に見えても、使用している和紙や糊の違いで次に託す保存を考えた場合には大変大きな違いが出てしまいます。
後世に残さない一時的な作品であれば、特別拘る必要もないかもしれません。
しかし後世に伝えるべき代々伝わる作品や価値ある作品であれば、保存性や表装の品格は大変重要になってきます。

「裏打ち和紙」について

「和紙」、一言で和紙と言っても原料となる「楮植物」が国産か輸入品か?
パルプが混ざっていないか?強い薬品で処理されていないか?
手漉き和紙と呼ばれている和紙でも粗悪な和紙は数多く存在いたします。
《例》として掛軸の最後に使用される宇田紙は昔ながらの製法で漉いている方が全国で、国指定選定保存技術者の福西氏ただ一人しかおりません。
このように保存に適した和紙は非常に少ないのです。

裏打ち和紙に拘る最大の理由

修理・修復を行う場合には、古い裏打和紙をすべて取り除き、進めていかないと適切な修復は出来ません。粗悪な和紙は古くなり劣化が進むとポキポキ折れたり、水分を加えると泥状態になってしまいます。そうなると修復困難や大変な修復費用が掛かってしまいます。機械表装は論外で修理・修復は困難です。

保存に適した和紙

保存に適した和紙は繊維が残り二百年以上経って本紙が著しく劣化していても、本紙にあまり負担を掛けずに剥がす事が可能です。

粗悪な和紙

粗悪な和紙の場合、繊維は壊れピンセットを使用してもつかむ事も出来ません。

繊維の壊れ泥状態

繊維は壊れ泥状態に!

最後に

技術と経験

古い作品は、目に見える傷みの他に、目に見えない劣化が進み想像を超える困難に出会う事が御座います。
こんな時、まさに技術と経験が必要となってくるのです。
清心堂は創業百有余年の歴史と経験をもとに、京都で7年間修業した経験と実績、文化財保存修復学会正会員として様々な知識を生かし指定文化財から個人所蔵の品の修理・表装を手掛け高い信頼を頂いております。是非、この機会にご相談頂けたら幸いです。