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『屛風の修理・修復④』


《本紙の解体・裏打ち紙の除去》
今回から本格的に本紙の修理・修復作業に着手していきます。
屏風本体から本紙を慎重に剥がし取ります。
本紙の裏には下張りの紙が本紙裏に張り付いているため剥がせる範囲で剥がしておきます。
余談ですが昔の下張りの紙は「ほぐ紙」と呼び、書き損じの紙や不要となった和紙を下張りとして使用していることが多く当時としては大変貴重な素材であったと言う事です。
私が京都での修行中、手のすいた時に「ほぐ紙」を継いで巻紙にして屏風の下張りに使用していました。
当時は購入する事も出来、それだけ良質な和紙として流通もしていましたが今では入手困難と言えます。

今回の屏風は過去に最低でも1回は修復が行われていたことが目視でもはっきり分かっていました。
どの様な方法で修復が行われていたかが解体、裏打ち紙の除去で分かってきました。
写真で紹介します。


本紙の表側に特殊なレーヨン紙で保護し裏面に十分な水分を加え澱粉糊を柔らかくし
古い裏打ち紙を除去していきます。

破れた個所に大雑把な修理が施されていました。
傷に大きく補紙が貼られていました。
金箔を複雑に埋め込んでいました。

欠損部分などに裏から補紙し表から補彩を施している事がわかります。

前回の補紙、金箔は全て1度取り除きます。


赤い線の上下で色が異なっている事が分かるでしょうか。
これは前回の修復時に古い裏打ち紙を剥がす時にオリジナルの本紙が「あいへぎ」になってしまったためです。
「あいへぎ」とは糊が濃いなどが原因で裏打ち紙を剥がす際に本紙と裏打ち紙の接着面から剥がれずに本紙の表面を裏打ち紙に付いたまま剥がしてしまう事で起こる現象です。
部分的に本紙が薄くなってしまう被害が起きてしまいます。
掛け軸・額装・屏風など裏打ちがされている全ての紙本に起こりえる事です。
原因としては職人の技術はもちろんですが、本紙の紙質、糊の濃さが大きな要因となります。
余談になりますが手掛ける作品はボロボロの作品からそれほど傷みの無い物まで様々な状態の作品を手掛けます。
広げる事も困難な作品でも良質な和紙で適切な糊の濃さで裏打ちされている作品は慎重に作業すれば安全に剥がせる場合もあれば、作品に傷みも無く安心して剥がせると思いきや、糊が濃すぎたり裏打ち紙が厚すぎたりで通常の5倍、10倍の時間がかかる時も御座います。
私個人的には修復作業において大切な本紙(作品)に直接触れている最初の肌裏と言う裏打ち紙を本紙から無事に剥がし終えた時に修復の7割は終わった!と精神的に感じるぐらいに危険を伴い、神経と時間を使う最も難しく怖い修復作業と思っています。


全ての裏打ち紙、過去の修復時の補紙を取り除き新たな修復を始めていきます。